達人に聞く、「カラーデザイン」の話。【藤枝智美氏編#1】世界観をつくる仕事

国際カラーデザイン協会のシニアカラーデザインマスター桜井輝子が各界の達人を訪ね、「カラーデザイン」にまつわるあれこれをインタビュー。ここでしか聞けない、とっておきの話をご紹介します。

達人に聞く「カラーデザイン」の話

藤枝 智美 氏 Fujieda Satomi
プロダクションデザイナー/空間デザイナー/美術デザイナー
大阪芸術大学映像学科卒業後株式会社グレイ美術入社。入社直後officeTarget 鈴木一弘氏に師事2012年よりデザイナーとして活動を始め、2014年独立。以後フリーランスのデザイナーとして映像の美術デザインをメインに活動。その他イベント空間、店舗デザイン、ウインドディスプレイやウェディングの空間デザインやコーディネートまで幅広く活動を行っている。[作品紹介]
CM:Y!mobile「ワイモバ学園」シリーズ/SUBARU XV「好奇心」篇 /STORY OF POKÉMON RESCUE/KIRIN 晴れと水「咲きます。」「夏がくるね。」篇/チオビタドリンク「家族のとびら」「チオビタと素顔」篇/ソフィはだおもい 「新肌習慣」篇「極うすスリム 青空ヨガ」篇/「超熟睡ガード 寝返りしすぎ」篇/Sonyハイレゾ級ワイヤレス ゾクゾクムービー:L’Arc-en-Ciel、JUJU、MAN WITH A MISSION篇/カントリーマアム「あたためてもしあわせ」「冷やしてもしあわせ」篇、明治ポイフル「ポイフルスクラッチ」篇/クラシエコッコアポシリーズなど多数
MV: 嵐「Doors」「つなぐ」/米津玄師「春雷」/AAA 「MAGIC」「Miss you」「 愛してるのに、愛せない」「SHOW TIME」/安室奈美恵「Birthday」/西野カナ「好き」「恋する気持ち」/Kis-My-Ft2 「TONIGHT」「Another Future」「Perfect World」「WANNA BEEEE!!!」/AKB48「シュートサイン」など。

取材日/場所:2017年10月12日(木)/東京都世田谷区

藤枝智美氏 ♯1
 世界観をつくる仕事
桜井 輝子
プロダクションデザイナーとはあまり聞きなれないお仕事だと思うのですが、藤枝さんは普段どのようなことをしていらっしゃるのでしょうか?
藤枝智美
一言で言えば、映像の中の世界観を具体化させ創り上げる仕事です。 監督やスタッフの想い、ビジュアルをきちんとデザインすることが根本。 私はよく、「想いを創る」仕事をしていると言っています。

被写体以外の美術要素を管理する美術監督的な役割なので、小道具から舞台セットまで衣装以外のすべてのデザインを担当します。ハリウッド映画でのプロダクションデザイナーと言えば、衣装からロケーションまで広い範囲の要素が含まれるのですが、日本ではまだそこまで浸透しておらず、主にセットデザインや空間デザインを中心に行っています。
作品によっては、衣装の色合いも含めカラーコーディネートの部分で入らせて頂くこともあります。

桜井 輝子
基本的には、映像作品の中で「人間以外のすべての美術的な要素をデザインする」ということですね。最初のアイディア出しのところから撮影まで一貫して携わっていらっしゃるのでしょうか?
藤枝 智美
はい。撮影後の映像はまた別の専門家の手に渡るので、私の仕事としては基本的に初めから撮影終了後のセットの解体、撤去までです。
桜井 輝子
ご自身の発想や経験の蓄積によって、いくらでもお仕事の幅が広がって行きそうな世界ですね。アーティストのMVや企業のCMなど有名な作品を多数手がけられていますが、いくつかご紹介頂いてもよろしいですか?
藤枝 智美
クラシエのコッコアポのCMでは、「商品パッケージの色を視聴者の記憶に焼きつけるようなセットをデザインしてほしい」というご依頼を頂き、インパクトがありながらもパッケージの色を忠実に再現することにこだわりました。サーカス小屋をモチーフにしたセットの中で、音楽ユニットのチャラン・ポ・ランタンさんが歌っています。

※CM動画はコッコアポWEBムービーページ「わたし、まちがってた篇」よりご覧頂けます。

クラシエ

サーカス小屋がモチーフになっているレトロポップな空間。商品カラーを中心に構成されている。

クラシエイメージパース

セットデザインの根源となるイメージパースは、藤枝氏の手描き。製作に関わる部分まで細やかに考えられている。

桜井 輝子
CMのセットに使った色は、商品パッケージの色にぴったりと合わせているのですか?
コッコアポ シリーズ

クラシエ コッコアポ シリーズ4商品のパッケージ

藤枝 智美
はい。始めに商品やカタログを提供して頂いて、それを見本に色合わせをして塗装しています。CMにとって色は大切な要素なので、一番始めの段階でしっかりと色合わせをするケースがほとんどです。CMによっては予算の兼ね合いから、床、壁材など既製品を使うことで多少の色ズレが出る場合もありますが、塗料などオリジナルで作るものに関しては、忠実に色合わせを行います。
桜井 輝子
確かに、この商品のターゲット層は色に敏感な女性の方々ですから、忠実に色合わせを行うことが大切になってきますね。年代としてはどの辺りでしょうか?
藤枝 智美
30代前後の女性が多いようです。ポップだけれども子どもっぽくなりすぎないように、レトロなテイストを加えたり、アメリカンな電飾を加えたりと、ターゲットに合わせたデザインを施しています。
桜井 輝子
色々なものをすべてその色に塗るというアイディアが斬新ですね。藤枝さんのユニークな発想は、どこから来るのでしょうか?
藤枝 智美
先日は撮影で学校に行ったのですが、みんな机に落書きしていまして、よく見てみるとそれが意外とセンス良くて。「これがリアルだ!」と思ったら、それをまたセットに取り入れたりだとか…、日々のリアルな体験がアイディアの源だと感じます。映像の世界では、コッコアポのCMのように「想像の世界観」を描く作品もあれば、「リアルな世界観」を描く作品もあります。
桜井 輝子
そういえば、チオビタのCMでは、「リアルな世界観」を描かれていましたよね。

※大鵬薬品公式HP「チオビタ」CM情報「家族のとびら篇」よりご覧頂けます。

藤枝 智美
サイトで公開している「家族のとびら篇」では、四季の移り変わりの中にある家族のストーリーを描いているのですが、一瞬で視聴者に季節感を伝えるために、メインスタッフの間で細かく打ち合わせ、「色の効果」を最大限に活用しました。物語の始まりは春で、庭に咲く桜と菜の花の色が映し出され、梅雨時期になると背景の色がアジサイの紫系に変化します。やはり視覚に訴えかけるパワーは色が一番強いと感じています。
家族のとびら篇

季節の移り変わりを表現するため、セットを構成する全体的な色合いから細かな小道具まで緻密に計算されている。

桜井 輝子
CMとは思えないほど見応えがあります!ひとつのショートムービーを見ているみたい。ラストは感動しますし、心に響きます。
藤枝 智美
ありがとうございます。よく見て頂くと、細かな小道具も季節に応じて変化しています。季節感だけでなく、タレントさんの肌が綺麗に見せることや、制服の色が映えるようにということも考えて事前にカメラマンと綿密な打ち合わせを行っています。もともと壁やタイルが真っ白だったのですが、上から色の着いた化粧板やタイルシールを貼っています。ただそのまま貼り付けるだけでは生活感が出ないので、「汚し」と呼ばれる加工を施して、年月が経っている雰囲気を出しています。
家族のとびら篇

左:エイジングと呼ばれる汚し加工を施す前 右:汚し加工後は年数が経過し、使い込んだような生活感が感じられる。

桜井 輝子
なるほど。その細かな準備が大切なのですね。ただ綺麗なだけでは人工的に見えてしまったり、薄っぺらく感じてしまいますよね。
藤枝 智美
そうですね。このちょっとした「味」を加える作業が大事なのですよね。汚しの色ひとつとっても、黄色っぽくすれば「お父さんがタバコを吸っているのかな」と想像させるようなヤニっぽさが出ますし、グレイに寄せれば埃っぽさが演出できます。私はよく塗装スタッフに「味」を出したいという言葉を使うのですが…。本当にちょっとした事で空間の印象が変わるので、そこまでこだわって考えています。

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