達人に聞く、「カラーデザイン」の話。【久保田秀明氏編#3】色の不思議な世界

国際カラーデザイン協会のシニアカラーデザインマスター桜井輝子が各界の達人を訪ね、「カラーデザイン」にまつわるあれこれをインタビュー。ここでしか聞けない、とっておきの話をご紹介します。

達人に聞く「カラーデザイン」の話

久保田 秀明 氏 Hideaki Kubota
クリエイティブディレクター
凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター シニアクリエイティブディレクター。1979年、凸版印刷株式会社入社。2007年グラフィック・アーツ・センター、センター長就任。2012年より現職。プリンティング・ディレクション部門活動と各種クリエイティブ協会・諸団体との関係強化を担う。シニアクリエイティブディレクターとしてデザイン分野で幅広く講演、企画支援活動を行っている。

取材日/場所:2017年5月25日(木)/東京都港区

久保田秀明氏 ♯3
 色の不思議な世界
久保田秀明
色を見て先生が土地柄のことを言うのが不思議だったんですよ。町の名前、村の名前まで当てるような先生だったんで。それはもうちょっとね、ランクが違いすぎるのだけど、せめて土地の凸凹感とか人口密度くらいまでわかるようになるとすごくいいなと思って、その部分に興味を持って注力していました。

ある時ある女の子の見立てをしていた時に、出してくれた色を1日預からせてもらったんですね。その人の性格は見えたんだけど、ここから風景が見えないかと思って頑張って見たのですよ。色から色々な信号が出ているのですけど、一つ一つのピースにおける辻褄があうように想起しながら、4時間くらいかけて眺めていました。そしたら、ある一つの情景が浮かんできました。ダラダラとした長い坂道の両脇が商店街になっている。その坂道をずーっと登っていった先の公園を横切って家に帰る。その人の家は2階の端だというところまで見えたのです。それで、その女の子に半信半疑で話したら、神楽坂の上の公園の向こう側の家に住んでいたっていう。

桜井 輝子
えぇーー!
久保田秀明
あ!俺もきたな!と。それがたぶん40代くらいの時だったかな。それでわかったのが、その人の性格っていうのももちろん出るのだけど、風景や情景もダブっているんじゃないかって。そうするとね、面白いんですよ、情報の中には人柄や交友関係など、普通の色彩心理から見えるけれども、風景っていうのもダブって見えるんですよ。その人の性格と風景がダブって見えるっていうのはどうゆうことかなと。よく住んでいるところで性格が変わるなんていうけれど、あながち嘘ではない。

それともうひとつはね、レコード盤ってありますよね。ステレオというシステムがあって、左右から違う音が出ますよね。レコードの溝は一つなのに、なんで違う音が出るかっていうと、針の縦横の方向でもって磁石が嗅ぎ分けて違う音が出せているわけなのです。あれは立体的にうねっているの。それと同じように、嗜好色というのは、ある面ではこうゆう意味が出て、違う面で捉えると凸凹が出てくる。それが風景とその人の性格が別々に見えるっていうことなんですね。うまく言えないけど。

レコード
桜井 輝子
いえ、非常によくわかります。
久保田秀明
つまり、多層構造になっているんですよ。単純に、赤の意味はこれとこれですって示すだけでは足りない、深い次元が潜んでいるんです。

風景を見るときのヒントっていうのは、青の色にあるんですね。青の色がセルリアンブルーのような明るい場合には、東や南に開けている、またはそちらに海辺があることを暗示します。逆にアンダーな紺色や紫がかった青色は、北や西に空間が開けている、または海辺があることを暗示します。それで方向というものを見ていくのですが、見立て違いの面白い話がいくつかあるんです。

ある人に「あなたの家は東にも西にも川があって挟まれています。どこですか?」と聞いたら、川が周囲にはないっていう返答だったんですね。そこで平行線になってしまったわけなのですが、よくよく聞いてみると実家が高知県の土佐清水市だとわかったんですね。おっと、川じゃなくて海だった!土佐清水は四国最南端で海に挟まれているので、スケールが違ったんですよね。

桜井 輝子
なるほど。
久保田秀明
また別の人を見たときには「あなたの仕事場には川が流れている。あなたはその川を見下ろしていますね。」と言ったら、周りに川がありませんって言うんですね。私は絶対あると思ったので、事務所に行かせてくれって言ったんですね。それでもやっぱりなくて、この下は暗渠(あんきょ)じゃないかって確認したくらい。そうしたら何日か後に電話が来て「久保田さんわかりました。私は海が好きなので、デスクに海の写真を貼っているんです」と。水を見下ろすというキーワードがイコールしていたんです。
桜井 輝子
すごく面白い!必ずしも物理的に水があるというわけではなくて、その人にとっての水ということですね。毎日海を見下ろしながらお仕事されていたということですものね。
久保田秀明
そうゆうギャップがあるんです。あと面白いのが、原色の鮮やかな色がぱーっと並んだ場合、街中で賑やかってことを暗示するんですね。その中でも、人工的な色を私は毒色と呼んでいるんだけど、自然界にはあまりないようなピンクや薄紫、エメラルドグリーンのような色が入っている場合には、ピンク街になってくるの。いわゆる色街というか、人工的な不自然な街の在り方を示しています。
街中
久保田秀明
ちょっと話はずれますが、ある人に「あなた非常に賑やかな街にお住まいですね」って話をしたら、全然違いますよって言うわけですよ。とても静かな田舎に住んでいるってことでした。ここまでのギャップってこれまでにあったかなっていうくらいで、おかしいなと思って詳しく話を聞いていったら、小さい子どもがいて家の中がとても賑やかだったんです。つまり、家の中が騒がしい街になっていたということでした。

そうやってスケールの違いは出てくるんですけど、何かしらがあるんですよ。その人の心の宇宙というか、心の世界の在り方が色に表れるんです。

桜井 輝子
なるほど~、面白い!それぞれの色の持つ意味がとても興味深いです。
久保田秀明
出版社の社長の友人がいるんですが、書籍の売り上げに悩んでいたんですね。なぜか自分のところで作った本のシェアが伸びていかないと。だったら、デザインの観点からパッと見た時に気持ちが良いか悪いかくらいはわかるから一回見てみようかってことで、友人の会社に行ったんですよ。たくさん並んだ本を眺めていると、最初は見えなかったものがだんだんと見えてくるんですよ。例えばある書籍では「厳かに心穏やかに元気に」っていうトーンで表現すべきなのに、挿絵の中には病的な信号を出すものもあるんですよ。これは嫌な思いをする人がいるから切り替えないとだめですよって言ったり。

またある本では森の写真を使っていたのだけれども、印刷の関係なのか緑が濁っているんですね。その本は見識のある方々を対象とした内容なので、そうすると緑にはすごく敏感なはずなのですよね。濁ったグリーンを見ると嫌な気分になってしまう。もっと彩度を上げないとだめって言ったら、友人も「そう言われてみれば、俺も嫌だわ」って言うんです。友人も緑の男だからですよ。社長にまでなって努力家で健康的でっていうのは緑の性質で、この緑が青みを帯びるとさらに強烈なんですよ。ピーコックグリーン、ビリジアングリーンの系統ですけど、それがくすんで濁ると逆に、不健康で努力もしない金も入らないという信号になってくるんですよ。

ピーコックグリーン
桜井 輝子
わー、それは…。
久保田秀明
例えば、色々なメーカーの板チョコを割ってお皿に並べて食べても、実際のところどこのメーカーのものだか区別がつかなかったりするじゃないですか。私たちはパッケージを見ながらイメージを膨らませて食べているわけですよね。パッケージデザインの在り方や色の効果っていうのはものすごく重要なんです。これまでデザインの良し悪しを理論化することは難しかったんです。でもこれからは、デザインと色との佇まいが大きく嗜好に反映されているということをもっと流布していかなければいけないんじゃないかと思っているんです。
桜井 輝子
確かに。誰もが気づき始めていることのひとつに、これからのマーケティングはアンケートの数値だけでは読み解けない、「何とかして、人の心に響くものを生み出さねば」というものがあると思います。国際カラーデザイン協会の理念は、カラーとデザインで社会に貢献していくということなので、これからの時代の流れに合致しているかもしれません。笑
久保田秀明
まさにぴったりですね。笑

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