達人に聞く、「カラーデザイン」の話。【久保田秀明氏編#2】色占いとの出会い
国際カラーデザイン協会のシニアカラーデザインマスター桜井輝子が各界の達人を訪ね、「カラーデザイン」にまつわるあれこれをインタビュー。ここでしか聞けない、とっておきの話をご紹介します。
クリエイティブディレクター
凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター シニアクリエイティブディレクター。1979年、凸版印刷株式会社入社。2007年グラフィック・アーツ・センター、センター長就任。2012年より現職。プリンティング・ディレクション部門活動と各種クリエイティブ協会・諸団体との関係強化を担う。シニアクリエイティブディレクターとしてデザイン分野で幅広く講演、企画支援活動を行っている。
取材日/場所:2017年5月25日(木)/東京都港区
- 久保田秀明氏 ♯2
- 色占いとの出会い
- 久保田さんは色占いをされていて、それがよく当たるということで業界内で評判だと伺ったのですが、そのあたりのお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。
- 色占いっていうと胡散臭さがあり、恥ずかしさがあって隠していた部分もあるんですよ。でも、私も還暦になりましたので、そろそろ大らかに世の中に広めていったほうがいいんじゃないかという気持ちがありまして、実は公に発表を始めたのはここ2~3年なんですよ。
- そうなんですか!ずいぶん長い間研究されているのに、意外です。
- 例えば、美大などでお話しても奇異な感じで捉えられますし、面白いって言ってくれる生徒もいますが、あまりアカデミックな内容ではないのでね。どんなふうに受け止められているかは微妙です。
そもそものはじまりは、大学二年の頃です。人間関係で悩んだりして何かヒントがほしいなって思っていた時に、色で何でもわかるっていう助教授に出会ったんです。ある生徒が学費を持ったまま絵を描いていたら、その先生が「君、早く学費を払ってきたほうがいいよ」って言って、その生徒がびっくりして学費を慌てて払いに行ったってことなんだけど、なんで先生は今日自分が学費を持ってきているってわかったのか聞いてみたら「君の絵にそう出てたんだよ」って。
- それを聞いた時は、そんなことあるのかなって思ったんですけど、他にもいくつか噂があったんですよ。で、半信半疑で先生のところに行って、自分も見てもらえないか頼んでみたんです。そうしたら、カラーカードをたくさん出してくれて、好きな色を選べって言うんですよね。何枚か選んだら、先生が「お父さんは厳格で無口な方だったでしょう。お母さんはこうゆう性格で、二人はとっても仲がよかったと思います。あなたの家には大きな一本の木がありまして、街のランドマークになっていることでしょう」と言ったんです。その時には切っちゃってたんだけど、実は大きな杉の木があって、崖に近いところだったので遠くからでも見えたんですよ。確かにランドマークと言ったらランドマークで、街の端にある大きな杉ですからね。それですごいなと思ったんですね。その後先生が「あなたは、お姉さんが二人いますね」と。でも「私には姉はいません。弟がいるだけです」と言ったんです。そうしたら「戸籍謄本を見たことありますか?あなたが産まれる前にお姉さんが二人死んでいるかもしれませんよ」って言うから、「いや、そんなのはありませんよ」って言ったんです。だけど、「久保田さんが何を言おうが構わないんです。私は色を見て正直に言っているだけですから」って。で、何その突っぱね方は!と思ったんですよ。いないものはいないんだし。で、ちょっと憤慨してね。先生が「一週間くらいしたら、何かわかるかもしれませんよ」って言うので、わかりましたと言いながらも、信じていいのか悪いのかよくわからない感じでプンプンしながら研究室を出たんですよ。そうしたらですね、まさに一週間した時にわかったんです。
私が子供の頃、父親の一番下の妹は女子高生だったんです。その上の妹は看護婦さんで、当時は家から出入りしていたんですよ。その叔母たちに可愛がってもらっていた時期があったんです。それが「二人の姉」と染み込んでいて、心の中ではお姉さんなんですよね。先生に実はこうでしたって言ったら「やっぱりそうでしたか」って言ったの。それで、なんだろうこれはと思って、先生に教えてもらえないでしょうかって頼みました。そこから始まったんですよ。
- すごいお話しですね。
- 先生が「これはなかなか難しいですよ。ABCDEっていうランクがあったとして、理屈で説明できるのは、EDCまでなんです。そこまでは、この色にはこういう意味があるからって説明ができるんですが、BとかAのランクにいくと、理屈では説明がつかないんです。なんでそこまでわかるのって聞かれても答えられないんです。久保田さんにE、Dって教えて行った成れの果てで、なんとなくB、Aの世界まで見えるようになったら面白いですよね。それは私の楽しみでもありますから、お教えしましょうか?」って言ってくれたんです。
先生にどこまで見えるんですかって聞いたら、その人の今の環境もわかるし、面白いことに、その人のずーっと先祖を追って見ていくこともできると。過去も見えるってことは、その人の未来も見えるのか聞いたら、見えると言うんですね。その人がどうやって死ぬのかもわかると言うんです。「だけど久保田さんね、絶対に聞かないでください。私は教育者として、その人の未来がここまでだっていう限界を言う立場ではないんです。その人があるレベルで終わったとしても、もっと先がありますよって指導するのが私の役目です。だから、それ以上は聞かないでください」と。「わかりました。それ以上は聞きませんけど、先生ヒントをください。未来ってどうやって見るんでしょうか」って聞いたら「今ここにいるその人と、その先祖の先祖の先祖のってずーっと何代も辿っていって、今のところにプッと当たるとパーーッと先が見えると。要は、血筋の中でできることとできないことの筋っていうものがあって、それでパッと先が見えるんです。もうこれ以上は聞かないでください」って言ったの。
それから週に一回先生のところに通うようになったんです。自分だけでは限界があるので、クラスメイトの好きな色を集めて先生に見てもらうようになりました。先生が言うことをメモして、クラスメイトにフィードバックしていきました。だけど、先生もいつもクリーンヒットするわけじゃなくて、なんだかもやもやするようなことも言うんですよね。だけど、二人の姉の話や杉の木の話を思い出すと、あながちこれは嘘ではないだろうと。
- そうこうするうちに、クラスメイトの女の子の色を直接見てもらう機会があって、「この色はあなたの家の造りのことを言っています。お話してもいいですか?」「どうぞ、かまいません」「車の通りからこのくらいの幅の階段を三段上がって歩きます。そこは庭になっていて、その先に白い木のドアがあって金のドアノブが付いています。開けていいですか?」というような見立てをするんです。順繰り順繰りに開いていくんですよ。「窓から見える情景の話をします。今、街灯に火が灯ったところです。黒いひしゃげた形の車が止まりました。中から人が出てきましたよ。これはあなたの家の車ですか?」女の子は、「うちは白い車なので違います」と言いました。「そうですか。夕暮れ時だから、白い車が黒く見えるのかもしれませんね。あなたの家の周りをその人がぐるぐる回っていますよ。でもやがて立ち去るでしょう」と言いました。女の子は思わぬ見立てに困惑していましたが、そのあたりで会がお開きになりました。
次の日、女の子が「みんな、大変大変!先生に言われたことをお母さんに話したら、実は昨日、お父さんのところに用事があってやってきた人がいたって言うの。それが、黒くてひしゃげた車で来てたんだって。お父さんがいなかったから帰っていったけど…」という事実があったんですね。でもこれって、色彩心理超えているよね。
- 超えてますね。
- その時に初めて、これまで先生が当たり障りのない見立てをしていた次元から、バーンと違う次元にいけることをクラスメイトたちが共有したんですよ、やっぱこれってすげえなって話になって。これが本当に真剣になって勉強しようと思ったきっかけでした。
- なんだかすごいお話ですね。
- 大学卒業後も時々先生と会っていたんです。もう晩年になってからは、先生も耳が遠くなられたのと、声が小さくなってきたため会話がしづらくなってきました。とうとうね、色々な聞きたかったことを聞けずに終わってしまったんです。だけど亡くなられる間際に「もし先生がお亡くなりになったら、その後は誰に教えてもらったらいいでしょうか。先生の一番のお弟子さんは誰ですか?」と聞いたらば「それは久保田さんですよ」と。そうかと。ある意味、その時に覚悟を決めました。