達人に聞く、「カラーデザイン」の話。【ひびのこづえ氏編#4】色のルーツと「白」

国際カラーデザイン協会のシニアカラーデザインマスター桜井輝子が各界の達人を訪ね、「カラーデザイン」にまつわるあれこれをインタビュー。ここでしか聞けない、とっておきの話をご紹介します。

達人に聞く「カラーデザイン」の話

ひびの こづえ 氏 Hibino Kodue
コスチューム・アーティスト
1958年静岡県生まれ。1982年東京藝術大学美術学部デザイン科視覚伝達デザイン卒業。1988年のデビュー以来、舞台、テレビ番組、CM、広告、ダンス、バレエ、映画など幅広い分野で独自のコスチュームを制作。その他にも、ひびのこづえブランドとしてハンカチやバッグをはじめとした雑貨の商品開発を行っている。1984年、日本グラフィック展・奨励賞受賞。1989年、日本グラフィック展・年間作家新人賞受賞。1992年エイボン女性年度賞・エイボン芸術賞、毎日ファッション大賞・新人賞および資生堂奨励賞受賞、NHK「にほんごであそぼ」グッドデザイン賞大賞受賞。2007年タカシマヤ文化基金・タカシマヤ美術賞受賞。

取材日/場所:2017年3月24日(金)/ひびのこづえ事務所(東京都港区)

ひびのこづえ氏♯4
色のルーツと「白」【最終回】
桜井 輝子
ひびのさんが普段お仕事をされる中で、色合わせのチャレンジやトライアルは常に意識なさっているのでしょうか?
ひびのこづえ
それはもう常にしています。自然界の中から色を探すことが多いです。そこから出会った色は、人が気持ちよく感じる気がしますね。だから、逆にそうじゃないイメージにしたければ、自然界にはないような色の組み合わせをして、驚くような配色にしたり。ベースをわざと変えてみるってことですよね。

基本的には、自分が育ってきた自然の風景の色とか、自分の身の回りの色とかが蓄積されています。だから、いろんなところの記憶を引っ張り出してきて、その時のテーマで色を付けるとか。

桜井 輝子
ひびのさんの色のルーツは、やはり生まれ育った環境ですか?
ひびのこづえ
静岡県の沼津で生まれ少し育って、今度は名古屋の田んぼばっかりの場所で育って、その後は小学校から新宿です。
桜井 輝子
短い期間で、さまざまな環境の変化を体験していらっしゃるんですね!
ひびのこづえ
ええ。ものすごいギャップのあるところで育って。大学の時、初めてフランスに行った時に「あぁ色が全然違う」って思いましたね。まず空の色が違う、緑も違う。そこで初めて「だから私はこういう色を使う」って感じました。

自分の中ではアヴァンギャルドを目指しているつもりでしたが、歌舞伎に出会って「あれ、なんか私って日本の伝統色を(自分の中に)持っている」って気づきました。歌舞伎は、すごく華やかな色使いに見えますが、本来日本が持っていた色でした。昔は、自分が憧れていたヨーロッパやポップアートとかそっちの色使いを目指していたはずでしたが、実はどっぷり日本人だったっていう(笑)

桜井 輝子
それに気づかれたのが、勘三郎さんとのご縁からなのですね。
ひびのこづえ
まさか歌舞伎に携わるとは思わなかったです。一番古い伝統で縛られた仕事と、私はもっと違うほうにいくつもりだったので。おかしいですね(笑)
桜井 輝子
そうですね(笑)でも、すごい化学反応が起きている気がします!若い世代の人たちが嬉しくなっちゃうような。ところで、ひびのさんご自身を色で表すと、どのような色でしょうか?ご自身が大切にされている色はありますか?
ひびのこづえ
一番好きなのは白です。白はすべてを救ってくれます。「ぬけ」なんですよね、白って。

色だけで攻めていくと気分が滅入りそうになった時、そこに白が入ってくるだけで変わるし、白を混ぜることで色が変化し、白は染まっていく。色の原点かなというふうに思うし。自分も白でありたいというか。

桜井 輝子
ドリカムの「きみにしか聞こえない」のPVの衣装は、白くて細い糸や布がどこまでも繊細につながっていくようで、とても印象的です。

※編集部注…DREAMS COME TURE「きみにしか聞こえない」は、2007年発売の楽曲。同名の映画の主題歌であるこの曲は、「誰もがどこかでつながっている」というテーマをもつ。

水戸芸術館

DREAMS COME TRUE「きみにしか聞こえない」PV衣装・セット (2007年)

ひびのこづえ
あのときはちょっとつらかったですね。PVのお仕事の後、(吉田美和さんの)ご主人が亡くなってしまい。

※編集部注…2007年当時、DREAMS COME TUREの吉田美和氏と事実婚の関係にあった末田健氏が胚細胞腫瘍のため死去。

ひびのこづえ
あのPVの衣装をドリカムさんにお願いして、水戸芸術館で展示させてもらったのですが、PVで床に大量の白い布を敷き詰めたので、たくさん残っていて。それを捨てるのはもったいないから、ワークショップでその生地を使ってエコバックを作ることにしたんですが。

その前日に亡くなられたということを聞いて。みんなでその話をしながら、白いバッグを作って。何故かこんなに繋がって。不思議ですね。人の関係って。話がちょっと逸れてしまいましたが、白って助けてくれる色だというふうに思うんです。

桜井 輝子
国際カラーデザイン協会(ICD)には、色を使って美しいものを生み出したり、色の知識を活かして社会の役に立ちたいと志す方々が集まっているので、何かメッセージを頂けますでしょうか?
ひびのこづえ
あまり考え過ぎず、いろんな方法で組み合わせてみるということですかね。いつもチャレンジしていると楽しいので。よく子どものワークショップをするのですが、最初に絵を描いてもらいます。その時に「必ず色を付けて」と頼むんですね。線だけでものを描いて、あとから生地を見て色を考えようとする人がいますが、色を付けて、それを見ながら生地を探しに行ってもらいます。

そうすると迷わないし、より豊かな色を探せます。絵に描いたよりももっと綺麗な色(の生地)が見つかって、それをチクチク縫って形にしていくことで、よりユニークでオリジナルなものができる。「なんとなく」じゃなくて、どこかで決めながらやっていくと良いのかもしれないですね。

桜井 輝子
今回はたくさんの興味深いお話をお聞かせくださいまして、本当にありがとうございました。

編集部まとめ
取材当日(2017.3.24)、ICD事務局スタッフは六本木ヒルズで開催されていた『生活のたのしみ展』に出向いた。この展覧会のコンセプトは「ほぼ日」がつくる3日間だけの商店街というもの。ひびの氏のお店でハンカチを購入するため大賑わいのレジに並んでいたら、60代くらいの素敵な女性に話しかけられた。その女性曰く、「ひびのさんの作家名が“内藤こづえさん”だった時代から大好きなの。(ひびのさんが作られた)木の根っこの、切り株のような立体的なバッグは、ずっと大事に使ってるのよ!」作家名を “内藤こづえさん”から“ひびのこづえさん”に改められたのは、1997年のこと。こんなにも熱烈なファンが、きっと全国にたくさん居るに違いない。

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