達人に聞く、「カラーデザイン」の話。【浅葉克己氏編#2】コントラストデザイン(後編)

国際カラーデザイン協会のシニアカラーデザインマスター桜井輝子が各界の達人を訪ね、「カラーデザイン」にまつわるあれこれをインタビュー。ここでしか聞けない、とっておきの話をご紹介します。

達人に聞く「カラーデザイン」の話

浅葉 克己 氏 Katsumi Asaba
アートディレクター
国際カラーデザイン協会会長
1940年神奈川県横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所、ライトパブリシティを経て、75年浅葉克己デザイン室を設立。代表作にサントリー「夢街道」、西武百貨店「おいしい生活」、武田薬品「アリナミンA」等。日本アカデミー賞、亀倉雄策賞など受賞多数。東京ADC委員、東京TDC理事長、JAGDA会長、AGI日本代表、東京造形大学客員教授、桑沢デザイン研究所10代目所長。卓球六段。2002年紫綬褒章受章。13年旭日小綬章を受賞。

取材日/場所:2016年9月8日(木)/株式会社 浅葉克己デザイン室(東京都港区)

浅葉克己氏 ♯2
コントラストデザイン(後編)
桜井 輝子
前回のインタビューで、色に対するお考えについて伺わせて頂いたのですが、浅葉先生は白・黒・グレイの無彩色のバリエーションをとても大切になさっているのですね。
浅葉 克己
無彩色のバリエーションの中に感じる色を大事にしているんだよね。作品を見る人の発想やアイディアを掻き立てるように色付けしてる。
桜井 輝子
浅葉先生が昨年造本構成を手がけられた作品に、21世紀版『薔薇刑』がありますが、あの作品は究極のコントラストデザインで、見る人を圧倒しますね。

※編集部注…『薔薇刑』(ばらけい)は、写真家・細江英公による、三島由紀夫を被写体とした裸体写真集。1963年(昭和38年)に集英社より刊行。

浅葉 克己
本質まで掘り下げていったら、こうなった。漆のような深い黒を表現するために、「グラセット」という新しい印刷技法を使ったんだよ。グラビア+オフセットね。単純に考えたら『薔薇刑』だから、バラがわぁーっとなっている感じの「赤」っていうふうになるんだけど、そうじゃなくて、あの赤い花を咲かせるための棘の部分を強調して、花の部分はあえて見せない。
桜井 輝子
浅葉先生が考案された「薔薇文字」ですね。その文字が、あたかも毒を内包するかのような迫力のある漆黒で表現されているということですね。
浅葉 克己
スイスで薔薇刑のポスターを刷った。この時は屋外でね、リノリウムで版を彫って1.5tのトラクターが上から乗っかって刷ったんだよ。その様子を世界中から集まったデザイナーが見学していた。

※編集部注…リノリウムとは、床材などに使われる建材の一種。

薔薇刑の表紙

『薔薇刑』の表紙。艶っぽく光る漆黒のインキが薔薇文字に宿る危険な毒を彷彿させる。

薔薇刑

木版に1.5tトラクターを乗せて、これ以上ないほどの重厚な黒を刷り上げている。その様子を見学するのは世界中から集まったデザイナーたち。

薔薇刑

薔薇刑

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