なごや色さんぽ#22【有松絞りの藍色】

2019年06月16日 カラーコラム「なごや色さんぽ」

カラーデザインマスターによるカラーコラム『なごや色さんぽ』
第22回目は名古屋市緑区にある有松地区へ。有松は江戸時代から残る古い町並みや、伝統工芸有松絞りの技術を今に伝えていることが評価され、
今年の5月20日に、文化庁から「日本遺産」に認定されました。

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【有松絞りの藍色】
徳川家康が江戸に幕府を開いて間もない1608年、東海道の鳴海(なるみ)宿と池鯉鮒(ちりゅう)宿の間に有松は開かれました。
そこに最初に移住してきた竹田庄九郎らが、九州の豊後染めにヒントを得て、有松絞りは誕生しました。
多くの商人達が行き交う東海道で、当時国内有数の産地であった知多木綿に絞りを施した手ぬぐいを売ったところ、軽くてお洒落なお土産ということで大変人気を集めました。

「東海道中膝栗毛」では主人公の弥次さん喜多さんが「ほしいもの有松絞りよ 人の身の あぶら絞りし金にかえても」(人の身の汗と油を絞って稼いだ金に替えても、欲しいものは有松の絞り染だ!)と、有松絞りを買うくだりが登場しますし、
歌川広重の「東海道五十三次」の中でも「名物有松絞り店」の店先の賑わう様子が描かれています。広重といえば海や空の色に大胆かつ繊細に用いられた「広重ブルー※1」が有名です。

このように書くと、江戸時代の人はどうしてそんなに藍色や藍染が大好きなの?と思いますが、
これは幕府がたびたび出した「奢侈(しゃし)禁止令」の影響もあります。

庶民の贅沢を禁止して木綿と麻以外の素材の着物を着ることは禁止、色も高貴な紫色や華やかな紅色、梅色を使用不可、逆に鼠色・茶色・藍色など目立たない地味な色を推奨したのです。
ならば地味な色でもお洒落を楽しんでしまおうというのが江戸っ子の心意気。微妙な濃淡と色を掛け合わせて藍色の多彩なバリエーションを作りました。

代表的なもので薄い順から、藍白、瓶覗き(かめのぞき)から浅葱、藍、縹(はなだ)を経て紺、鉄紺など…藍色だけで、実に48色もあるのです。ちなみに藍の花ことばは「美しい装い」「あなた次第」だとか。

有松絞はすべて手作業で作られます。デザインを決めたらそれに合わせて糸で括って防染(染料がしみ込まないようにする)します。
と、言うのは簡単ですが、布の生地を小さくつまんでは、糸で強く括りこれを細かく繰り返していく地味な作業…。1m四方で1万回以上も繰り返すこともあるというので驚きです。括り方によって違う模様になるのですが、有松絞りには糸を括る技法が100種類もあり、その数は世界一です。

最近では、若い方や海外から注目されているということもあり、ポップでカラフルな有松絞り製品も作られています。

糸をほどいて開いてみるまでどんな仕上がりになるか分からないので、「一発勝負。出来上がったものを見るのが毎回ワクワクして楽しみです」と若き女性の作家さんはおっしゃいます。そうやって生まれる色の重なりやグラデーション。手にすれば、同じものは2つとないことに気がつくことでしょう。

有松絞りの浴衣は、絞りならではの独特の凹凸で肌にベタつかず、蒸し暑い夏にサラリと着こなせます。
江戸時代から400年以上続く伝統の技と粋を感じながら、令和の夏を楽しんでみてはいかがでしょうか?

byカラーデザインマスター 松下恵美子

※1広重ブルー 
:当時ヨーロッパから輸入されたベロ藍(紺青)のことで日本古来の藍色とは少し違うそうです。