なごや色さんぽ#18【 時代を映す「みずのいろ」 】
2019年05月08日 カラーコラム「なごや色さんぽ」カラーデザインマスターによるカラーコラム『なごや色さんぽ』
第18回目は、「美しすぎる和菓子」として話題を集める「みずのいろ」を訪ねて、名古屋の北西部に位置する岐阜県大垣市へ。
地下水に恵まれ「水の都」の異名をとる大垣で、江戸時代より水とともに和菓子を作り続ける「御菓子つちや」。
身近な水を表した「みずのいろ」の色にまつわるお話を、9代目を継ぐ槌󠄀谷祐哉氏より伺ってきました。
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【 時代を映す「みずのいろ」 】
まるでアート作品のように美しい「みずのいろ」。
そのポップでカラフルな色合いに多くの人が魅了される。
和菓子には珍しい鮮やかな色調や青色を使うことに、「こんな色にしていいのか」と、はじめ企画書を見た職人がとまどったとか。
和菓子らしくない色を選んだ背景には「日本人の色彩感覚の西洋化」があると槌󠄀谷氏は説明する。
今でこそスイーツの定番となったマカロンは、20年ほど前にはその原色調の色が食物には思えず、日本で広く流通することはなかった。
色彩環境のデジタル化が進み、染料や顔料では表現できない高彩度色を当たり前に目にするようになった昨今では、色に対する感覚も大きく変化し、ビビッドな洋菓子の色にも抵抗を覚えなくなった。ならば「今のお客様がきれいだと思う色を使って和菓子を表現したらどうか」。
時代に鋭敏な感性から生まれた「みずのいろ」は、2015年秋、日本橋三越で開催された「本和菓衆(ほんわかしゅう) ※1」の新作発表会で世にお目見えした。
「始まりは趣味の世界で作ったような」和菓子は、TwitterやSNSで評判が拡散され、「200~300箱作ったら終わり」のつもりだったのが、今日に至るまで愛され続ける逸品となった。
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赤、橙、黄、緑、青の5色は、水面(みなも)が映す四季折々の日本の光景を表している。
鮮やかだが、「水をテーマにしているから色付けも自然のもので」という思いから、着色には天然素材の「ハーブティー」が使われている(写真内リーフレット参照)。
「みずのいろ」には、水を連想させる青色の存在は欠かせない。ところが、安定して青い色を出せるハーブだけがなかなか見つからなかった。やむなく別案も検討する中で、運命のように「バタフライ・ピー」を知ったのは、「みずのいろ」のプレゼンに臨むその当日、何気なく手に取った1冊の雑誌がきっかけだったとか。
「バタフライ・ピー」は、花の部分に含まれるアントシアニンが「青」を発色させる。茶葉に含まれる花の数にはばらつきがあるため、
何㏄の水にハーブ何g入れて色を抽出すれば、必ず同じ色になるという数値的な色の管理が難しい。
ひとつひとつ手作りで何百何千もの数、常に安定した色の再現ができるのは、職人の目と手と培われた経験があってこそだという。
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カラフルな色を魅せる仕掛けはパッケージにも施されている。色はただの白ではなく「まっ白」で。
紙の表面には細かな凹凸があり、光を柔らかく拡散させる。1枚1枚を眼鏡のレンズのように立てて並べているのは、極限まで薄く引きのばされた「干錦玉(ほしきんぎょく) ※2」に光を透過させるための工夫。
すると、隣り合う色の間で混色が起き、そこには存在しない新しい色が生まれ、いっそう繊細で美しい色のグラデーションが演出される。
実際は5色だが、「七色(なないろ)」とか「虹の色」と見た人がイメージを膨らませ、夢のあるマジックが起きる。
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「みずのいろ」はオリジナルの他に、小説 ※3の登場人物を色で表したものや、岐阜を舞台にしたドラマ ※4にちなんだもの、季節に特化したもの ※5など、
さまざまなバリエーションが作られている。
時の風を読み、時に合わせてその色を変えていく「みずのいろ」。
新たに幕が上がった「令 和」の時代、
「みずのいろ」にこれからどんな色が映し出されていくのか・・・。目が離せない。
by シニアカラーデザインマスター[エグゼクティブ] 平松里香
※1 本和菓衆(ほんわかしゅう)
:老舗和菓子店の跡取りで作る若旦那集団。
※2 干錦玉(ほしきんぎょく)
:砂糖液を寒天で固めて干した伝統的な和菓子。
※3 坂木司著 『和菓子のアン』(光文社)
※4 NHK連続テレビ小説 『半分、青い。』
※5 限定商品「みずのいろ-ひとひら-」