達人に聞く、「カラーデザイン」の話。【久保田秀明氏編#1】見た目と中身とカラーデザイン

国際カラーデザイン協会のシニアカラーデザインマスター桜井輝子が各界の達人を訪ね、「カラーデザイン」にまつわるあれこれをインタビュー。ここでしか聞けない、とっておきの話をご紹介します。

達人に聞く「カラーデザイン」の話

久保田 秀明 氏 Hideaki Kubota
クリエイティブディレクター
凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター シニアクリエイティブディレクター。1979年、凸版印刷株式会社入社。2007年グラフィック・アーツ・センター、センター長就任。2012年より現職。プリンティング・ディレクション部門活動と各種クリエイティブ協会・諸団体との関係強化を担う。シニアクリエイティブディレクターとしてデザイン分野で幅広く講演、企画支援活動を行っている。

取材日/場所:2017年5月25日(木)/東京都港区

久保田秀明氏 ♯1
 見た目と中身とカラーデザイン
桜井 輝子
早速ですが、まずは久保田さんのお仕事について教えてください。
久保田秀明
私のもともとのルーツは、店頭広告のアートディレクターです。いわゆる、POP(Point of purchase advertising=ピーオーピー広告)ですね。
メーカーさんのキャンペーンやプロモーションに合わせて店頭でどう告知していくのか、商品をどう売るのかということを打ち出す広告のディレクションをしていました。今は、印刷の文化を啓蒙するような場で、特殊な印刷に携わったり、難しい印刷のソリューションを行ったりしています。
桜井 輝子
毎年開催される「グラフィックトライアル」は業界内で非常に注目を集めていますよね。

※編集部注…「グラフィックトライアル」とは、グラフィックデザインと印刷表現の関係を深く追求し、新しい表現を模索獲得するための試みであり、第一線で活躍するクリエイターがさまざまな印刷表現に挑戦する実験(トライアル)企画のこと。

グラフィックトライアル2017

「グラフィックトライアル2017 -Fusion-」2017年7月1日〜9月18日、印刷博物館P&Pギャラリー(東京都文京区)にて開催

久保田秀明
はい。それとはまた別に、色々なデザインやパッケージのコンサルティングを行うことが多いんですね。色の知見を生かしつつ、デザインとして長生きできるかどうかとか、ウケるデザインになっているかどうかっていう観点で、改善改良を加えるようなことをお話させて頂いています。
桜井 輝子
ご自身が提案をするだけでなく、デザイナーに対する指導もやってらっしゃるということですか?
久保田秀明
はい、そうですね。
桜井 輝子
そういえば、久保田さんからとても興味深いお話を伺ったことを思い出しました。ある商品の「既存パッケージ」とその会社に所属するデザイナーが考えた「改善案」があって、両方がいまひとつだった時に、久保田さんが新たな別の案を出された。消費者にアンケートを取った結果、久保田さんの案が最も支持を得たという…
久保田秀明
どういう商品も、最初生まれた時というのはかなりの時間とお金をかけて吟味されたパッケージが多いんですよね。で、リニューアルする時に、マーケティング上の都合もあって、新しい商品のような顔に仕立て上げなきゃいけないんです。その時に、なるべく時間もお金もかけないようにっていうのがメーカーの流れなんです。

そうすると、多くはデザインが劣化する方向に入っていくんですよ。これは、車のデザインもそうだと思うんです。モデルチェンジする時に大抵フォルムが削られてくるんですよね。シャープなお兄さんお姉さんの顔になってくるんです。それが良いか悪いかは別として、確かに新しいなって感じはするんですよ。だけど、とっつきにくくなってくるのが普通です。

桜井 輝子
う~ん、なるほど。
久保田秀明
食品のパッケージも、最初は丁寧に親しみやすく作るんだけど、リニューアルするとちょっとね、斜に構えたようなデザインになってくることが多いですよ。研ぎ澄まされるっていうか。それが時に悪い方に作用することもあるので、「もとのあるべき姿に戻しませんか?」ということを言って、手を加えるわけですね。それで、先ほどのお話っていうのは、その商品らしい落ち着いた顔に戻すことで皆が賛同しましたっていうエピソードですね。やっぱりそうゆうことだと思うんですよ。
桜井 輝子
とても分かりやすいです。
久保田秀明
リニューアルに失敗する企業っていうのはいっぱいありますね。
桜井 輝子
確かにそうかもしれません。あるメーカーの定番商品の歯磨き粉は、パッケージのベースカラーを変えたら売れなくなってしまったという話を聞いたことがあります。
歯磨き粉
久保田秀明
ありえるでしょう。
桜井 輝子
その商品は、白地に黒と赤のデザインだったらしいのですが、リニューアルでミントグリーン系の色に変えた。そうしたら消費者側の認識が「あれ?いつも使っている歯磨き粉がなくなってしまったのだろうか・・・」ということになり、売り上げが伸びなくなってしまったのだそうです。
久保田秀明
はじめに使われていた赤白黒っていうのは、私が言うところの「元色(もといろ)」で構成されていて、原始的なカラーなんですよね。ですから、好き嫌いではなく、信号として誰でも受け入れられるんですよ。

ミントグリーンというのは、二つの特徴があって、一つは中がミント味だという印象を与えるけれど、中から出てくるのは白い歯磨き粉が出てくる、その時の心理的なギャップでとても嫌になる。

二つめは、ミントグリーンそのものが好かれるパーセンテージが低いんですよ。ミントグリーンの彩度のあり方にもよるんだけど、濁った系統の落ち着いたミントグリーンっていうのは、とても嫌われる色です。たぶん、100人のうち、2、3人だけは好み、あとの人からは嫌われるという傾向があります。

食べないけれど口に入れるものっていうのは微妙で、食べ物とは作法が違うんですよ。名は体を表すではないけれど、どんな良いデザインであってもその中身を印象付ける形、または強調させる形でないと遊離するわけです。最近はデザインに時間もお金もかけないから、外部の優秀なデザイナーに任せちゃうという流れになっているのだろうけど、見た目と中身の印象が連動しているかの検証を企業が丁寧にしているのかっていうことを感じますよね。

桜井 輝子
非常に興味深いですね。

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